患者さんが旅立った後に残った、「生きる時間」に寄り添うという価値観
- 6月11日
- 読了時間: 6分

●自分を変えてくれた患者さんとのストーリー
リハビリに日々携わらせて頂く中でも、過去に大きく価値観が変わる体験がありました。
日々、知識や、技術を向上させることは当たり前ですが、人と接する職種であるからこそ、患者さんとの関わり方や、価値観を、磨き上げる必要があると思います。
今回は、自身の患者さんの看取りを体験し、大きく医療観や、関わり方が変わったエピソードを、話させて頂きます。

自分が担当する方に出会ったのは、訪問リハビリに従事している時でした。
その高齢女性は、徐々に歩行能力や、呼吸機能が失われていく進行性の神経難病をお持ちの方でした。
当初は、家族以外の他者を受け入れられない方で、私もその中の1人として、「彼女の心の扉を開けられるかどうか」という依頼で、初対面を迎えました。
すごくシャイで、目を合わして、話してくれず、カラダに触れるリハビリも、初めは困難であったため、お話をして終える訪問を、まずは重ねていきました。
本人の恥ずかしながらも、時折見せてくれる笑顔が印象的でした。
高齢者のリハビリでは、特に、カラダに触れるリハビリをするまで、信頼関係を築く必要があります。
この方は、特に時間を要する方でしたが、徐々に私に心を許して頂き、ベッドからの起き上がりから、歩行練習を徐々に行う事ができました。
動きをみると、「意外と動ける」という驚きがあり、自宅内やお外歩きも、十分に行えるレベルでした。
あとは、「彼女の心をどう動かすか」という点のみでした。
●心が動いて、カラダが動く

当たり前のことですが、人は何か役割や目的がないと、重い腰は持ち上がりません。
この方も、進行する病気の中で、落ち込むことや、できないという先入観から、動けずにいたように感じます。
この方の場合は、とにかく「好きなことをたくさんする」ということでした。
「嫌なことはイヤ」、「好きなことはスキ」。すごくはっきりした、少女のような可愛さのある女性でした。
好きなことを挙げてもらった中で、「お花や植物が好き」、「猫が好き」という気持ちが、特に強く聞かれました。
ここまでくれば、あとはカラダを動かすのみ。勇気を振り絞って、玄関を出て、「お花や植物、ネコ」を探しに、お外歩きが始まりました。
●脳の不思議さ

現時点での医療技術では、進行性の神経難病は、薬により症状を抑えるのみで、根本的な治療法は、見つかっておりません。
リハビリは、特に「進行を遅らせる」という点で、有効だとガイドラインにも記載してあります。
薬で神経症状を抑えるという日常ですが、本人の好きなことに向かう気持ちの強さは、何よりも、カラダの症状を、改善させる働きがあります。
この方も、「お外での楽しみ」に味を占めると、格段と運動量が上がったことで、自宅内の歩きも非常にスムーズになりました。
脳内では、運動効果や学習により、様々な脳内分泌物質が変化しますが、特にリハビリでは、本人の生活パターンを変えていく事が、効果的なアプローチだと感じます。
エビデンスに基づいた予後予測や、進行症状がありますが、本人の心を変え、活動パターンを変える。そうしていくと、思わぬカラダの改善が見られるところが、神経内科、脳血管疾患の魅力でもあると感じます。
●とは言っても、進行は止められない。

みんな、誰しもが明日、歳をとります。
彼女も、病気の進行は止められず、2年ほどで、歩きは、玄関前まで、自宅内トイレまで、ついには、ベッドでの起き上がりがやっとな状況になりました。
それでも、リハビリは、進行を遅らせるという目的は変わりません。
筋肉がより硬くなる前に、柔らかく、関節を動かしやすくする。たくさん、本人から話を引き出して、活発に笑顔で話す瞬間を増やす。
本人の認知機能を維持するためにも、“自発性”と呼ばれる、本人の動きだしや、活動意欲を最後まで引き出すことに、注力しました。
ここでも、“心が動けば、カラダは動く”ということを重視しました。
●最期のとき

人のお看取りまでの、状態変化は、個別性がありますが、共通する部分もあります。
徐々に、覚醒レベルが落ち、口から食べ物を入れ、噛んで、飲み込むという事が困難となってきます。
この方も、食事を口からとる事が困難な場面が増え、徐々に点滴へ移行していきました。
それでも、人の生きる力は、すごいものです。
好きなものや、音楽、親しい家族からの声かけを行うと、目を見開いて、笑顔で反応する事が多く見られます。
この、少しでも本人を起こして、笑顔を作る時間が、家族と過ごす上でも、とても貴重な時間となってきます。
最後の最後は、血圧が下がり、徐々に脈も下がっていきます。
ベッドの周りは、本人を大切に思う家族が集まり、そばに、大好きなぬいぐるみや、音楽が流れています。
浮かび上がるのは、本人の今までたくさん見せてくれた笑顔や、一生懸命に外を歩いてくれた姿です。
彼女のベッドを、家族みんなが囲み、思い出いっぱい、笑顔とたわいもない話が続きます。
とても、穏やかな時間です。
脈がなくなり、訪問医によって、最期が告げられます。
●看取りの後に、教えて頂いたこと
自分は、家族ではなく、医療スタッフとしての立場でしたが
彼女のために、どれだけ多くのことを出来ただろうと、考え続けました。

その答えは、最期を迎えるときに、家族の中から、たくさんのリハビリエピソードが笑顔とともに聞かれたこと。
自分が引き出せる笑顔が、経過の中でたくさんあったこと。
それは、何より「時間」という大切さを、教えて頂きました。
最後の最期まで、自分が出来るリハビリを行う。
最後のリハビリでは、出来る限り優しく、本人が呼吸しやすい環境を作り、ベッドのポジションを整えること。そして呼吸リハを行いました。
「温かいカラダ」から、葬儀へ送る「冷たいカラダ」まで触れさせて頂く、貴重な経験でした。

彼女を囲むご家族の方々が、涙しながらも、どこか穏やかな表情で、最期を迎えていらっしゃった時、少しでも、皆さんの幸せな時間に貢献できたかなと、何とも言えない感情になりました。
この時の思いが、リハビリ時間に、「最大限に力を尽くす」という、確固たる自分の信念に変わりました。
誰しも時間は有限で、悔いのないように。
明日死ぬかもわからない、今の時間を大切にする。
そんなシンプルな事実を肌で痛感し、自分の出来ることをひたすらに行うと。
●生活を変えるリハビリ

リハビリでは、深い知識に基づいた、アプローチ方法(引き出し)、そして施術(技術)が、必要です。
特に在宅のリハビリでは、人の行動を変える事が、何より効果をもたらします。
週1回60分のリハビリであれば、他の生活時間、6日と23時間を変えるという事です。
ここに常に付加価値を生み出すというとこが、大きな変化を生み出す秘訣です。
これからも、自分に関わる患者さんから、たくさんのことを学ばせて頂きながらも、たくさんのことを与えらえるように努めていきます。



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